■海外のベリー類は?

第5回 アメリカのブルーベリー生産事情―4

ブルーベリー栽培研究グループ

主宰 玉田 孝人

◇はじめに

 言うまでもなく、アメリカは「ブルーベリー産業発祥の国であり、産業の規模、品種改良、生産技術、樹および果実の生理・生態的研究など全ての分野で世界のトップリーダー」です。そのアメリカのブルーベリー生産の最新事情について、これまでに生産地域、栽培面積および生産量(1回目)、生産地域(主要な生産州)の気温および降水量(2回目)、そして生産地域のブルーベリータイプと主要品種(3回目)について紹介してきました。

 今回は、紹介してきた生産事情から見えるもの(推察されること)について、なん点かに整理してみたいと思います。

◎アメリカのブルーベリー生産事情から推察されること

 ブルーベリー生産事情のうち、特に、生産地域および栽培品種の動向から、大きくは、次のような点が推察されます。

1)新品種の誕生(栽培)によって生産地が移動する

ノーザンハイブッシュ「ドレイパー」(Draper)。ミシガン州立大学育成、2003年発表。早生~中生品種。2012年7月上旬、ニュージャージー州にて。
ノーザンハイブッシュ「ドレイパー」(Draper)

 アメリカのブルーベリー栽培面積および生産量は、この10年間でみても劇的に増加しています。特に増加が著しいのは西部地域と南部地域ですが、その理由は、第一に、樹および果実形質の優れた品種が育成されたことでした。例えば、ノーザンハイブッシュの新グループの品種(前回21世紀に誕生した品種とした)、「ドレイパー」、「リバティ」、「オーロラ」などです。これらの品種は、ミシガン州立大学で育成されたもので、共通して果実の諸形質が優れ、樹は耐寒性の強いのが特徴です。そのため、冬季の低温が厳しい西部地域の北部地方・オレゴン、ワシントン、ブリティシュコロンビア(カナダ)の各州で栽培が増大してきた訳です。また、サザンハイブッシュの例を挙げると、同タイプの品種は低温要求性が低いため、アメリカの南部地域ではもちろん、世界各地の冬季がより温暖の地域―南アメリカ、ヨーロッパ南部、中国南部―でも栽培が増大しています。

 これらの例は、樹および果実形質の優れた新品種の誕生によって、主産地が移動することを示しています。新品種による産地の移動は、果実の成熟期(収穫期)に大きく影響します。そのため、アメリカ産の生果を大量に消費している日本からみると、どの時期に、どこの州から、どのような品種が輸入されているのか知らなければ、販売競争策の検討は難しくなります。

 関連して、前述の3品種は、まだ、日本では栽培されていませんが、今後栽培されるようになると東北、北海道地方の主要品種になるだろうと期待されています。

 

2)品種選択は機械収穫に適した特性を重視

 ブルーベリーの品種選択は、一般的に、次のような特性を判断基準にすることが勧められています。すなわち、☯成熟期(早生、中生、晩生など)、☯樹性(樹姿、樹形、樹勢など)、☯収量(多、中など)、☯品質(果実の大きさ、果柄痕の大小と乾湿の状態、果色。果肉の硬さ、風味―糖度、酸度、糖酸比など―)☯生態的特性(低温要求量、耐凍性)、☯その他の特性(日持ち性、劣果性)など)です。

 しかし、アメリカの各地域の主要品種からみると、品種選択の基準として、収穫時期および果実品質に加えて、“全体的に機械収穫に適した形質”を重視している様子が伺われます。例えば、ノーザンハイブッシュの主要品種である「デューク」、「ブルークロップ」、「エオリオット」などがそうです。これらの品種は、成熟期がそれぞれ早生、中生、晩生であるため、同一園で栽培できます。その上、樹形は直立性、樹勢は中位からおう盛、果柄痕が小さくて乾き、果肉が硬く、日持ちが良く、成熟期の揃いなど、機械収穫に適しているとされる形質を共通し持っています。

 このように機械収穫に適した品種の育成は、現在を主要な育種目標です。

 

3)アメリカでは比較的品種数が少ない

ノーザンハイブッシュ「リバティ」(Liberty)。ミシガン州立大学育成、2003年発表。極晩生品種。2012年6月下旬、オランダ、マーストリヒト市にて。
ノーザンハイブッシュ「リバティ」(Liberty)

 アメリカの場合、日本と比べて、ノーザンハイブッシュ、サザンハイブッシュ、ラビットアイのいずれのタイプでも主要品種として挙げられているのは少数です。

 品種数が比較的少ないのはどのような理由によるのでしょうか。それは、アメリカの大規模栽培園では、市場出荷(国内、国外)を前提とした生産のためであると考えられます。

すなわち、市場出荷の場合、一般的に、一定の生産量(輸出量)の確保、生産時期(輸出時期)、均一な果実品質の保持、輸送期間中の品質劣化の防止、価格などが重要です。そのような販売競争を、世界的な規模で行う場合、栽培面では品種の統一および一定規模の栽培面積が有利に働くことは容易に想像できます。

 

4)アメリカ産果実(生果)と日本産果実との競合

 アメリカの各地域における主要品種は、ほとんどが日本でも栽培されています。アメリカでは、(収穫期)が4月(フロリダ州)から始まり、10月(ワシントン州)まで続き、日本への生果の輸入も同時期です(アメリカからの輸入生果は、2011年には約800tでした)。したがって、6月から9月までの4カ月間は、国内産とアメリカ産の同品種の生果が、同じ販売コーナーに並ぶことになります。その場合、日本の消費者が国内産ブルーベリーに手を伸ばす判断材料はどんな事項でしょうか。一般的には、☯果実の大きさ、☯着色の揃い、☯傷害が無い、☯新鮮、☯容器からの産地のイメージが湧く、☯値段も手ごろであること、などであると思われます。購入後は、☯安全・安心、☯食べておいしい、☯日持ちがよい、ことなどでしょう。このようなブルーベリー生産こそが、日本の生産者の理念であり持ち合わせている技術であるはずです。

 国内産生果の特徴は声を大にして訴求すべきです。

 

5)日本のブルーベリー生産の特徴と品種選択の基準

ノーザンハイブッシュ「オーロラ」(Aurora)。ミシガン州立大学育成、2003年発表。極晩生品種。2008年7月上旬、オレゴン州にて。
ノーザンハイブッシュ「オーロラ」(Aurora)

 全国各地で見られるブルーベリー園の経営形態は、主として観光摘み取り園による直売が中心です。その上、☯経営面積が小さく(1戸当たり20~30a。アメリカでは40haが経営の標準とされています)、☯ほとんどが兼業です。栽培面では、☯収穫期が梅雨時期と重なる気象条件、☯水田転換園が多い土壌条件が、特徴的です。消費面では☯消費者の嗜好・志向などの点からアメリカおよび世界各国と違う側面から品種を選択する必要があるといえます。しかし、選択したい品種は、ほとんど全てがアメリカの育成品種です。

 日本のブルーベリー生産者の理念は、日本の消費者が求める「安全・安心で、新鮮でおいしく、健康に良いブルーベリー」です。そのための果実生産では、病害虫防除のために化学農薬の散布を必要としない栽培管理ができる圃場条件の下で、樹(枝)上における全体的な果実の風味を判断基準の中心に据えて、成熟期(収穫期)、樹勢の強弱、土壌適応性、成熟期の早晩、果実の大きさ、果柄痕の大小と乾湿の状態、果肉の硬さ、果実の糖度および酸度、耐凍性、日持ち性、烈果性などの特性を重視して選択することが重要であると考えられます。また、観光摘み取り園では、消費者の多様な嗜好・志向に応えるために栽培する品種が多くなるのは、経営戦略として当然のことです。

 

◎おわりに-生産者のさらなる栽培知識の蓄積と技術向上に期待して

 ブルーベリー生産者に期待することを記して、アメリカのブルーベリー生産事情の紹介を終わりにしたいと思います。

 日本で、本格的なブルーベリー栽培が始まったのは、1980年代の初期(1983年、全国の栽培面積は37ha)でした。それから30年後の2012年、栽培面積は1,200ha18年の約32倍)に達していると推察されます。このような目覚ましい発展は、栽培の視点からは、☯樹および果実形質の優れた品種導入と栽培、☯栽培知識の蓄積と技術の向上によって、消費者の嗜好にそった大きくておいしいブルーベリーが生産できるようになったことでした。

 生産者の努力によって、栽培上の諸課題は、相当程度克服されてきましたが、それでも‘アメリカにはなくて日本にあるもの‘-成熟期(収穫期)が梅雨期間である、水田転換園が多いこと-から、おいしいブルーベリー生産に関わる課題は残っています。そのため、今後も、品種、栽培管理、年による気象条件などと樹の成長・果実収穫量および品質との関係につて、知識の蓄積と栽培技術の向上が不可欠であると思います。

 ここまで、アメリカのブルーベリー生産事情を紹介してきましたが、その要旨は次のような点でした。まず、☯アメリカは、ブルーベリー産業のトップリーダーである、☯日本の栽培品種は、日本の気象・土壌条件下で詳しい成長観察が必要である、ことなどを述べました。次に、☯アメリカ産の輸入生果が日本のブルーベリー産業を支えている、☯アメリカの生産地域の移動と品種の動向が日本の果実消費に影響し、国内産果実の販売と競合する、ことも挙げました。さらに、☯日本のブルーベリー園経営は、観光摘み取り園による直売が主体であるため、アメリカの小品種の大規模栽培園とは違った視点からの品種選択が必要である、とも述べました。

 以上のことから、玉田の主張する「海外情報に目を向けるべきだと」という旨趣を理解していただけましたら幸いです。その上で、日本におけるブルーベリー生産の未来を見通し、地域および自園の栽培上の課題解決の糸口となることを願っております。

 なお、当記事は「農耕と園芸・最新のアメリカのブルーベリー生産事情」(20129~10月号)に加筆訂正したものです。

 

次回からは、世界第2位のブルーベリー生産国・チリの生産事情を紹介します。